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Selfishly

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忘却の行方



~ 3周年&10万ヒット感謝企画 ~

『忘却の行方』

エドワードが演習訓練で、見事4本の旗を勝ち取り、ロイ・マスタング閣下に捧げた偉業は
軍部内で、東方を歓喜で湧かせ、アメトリスの四方の支部に苦渋と感嘆の嵐を吹き荒れさせた。
歴代初の功績に、大総統からも指揮官エドワード・エルリックと、彼が仕えるロイ・マスタング中将にも、
直々のお褒めの言葉と、近々の功労に見合う褒美をと約束を頂くまでに至ったのだ。
演習に参加していた兵士には、特別に金一封が贈られた。


「いやぁ~、大将ならやるんじゃないかと思ってたけど、
 マジ勝ち取ってくるんだもんなぁ」

結果の報告は、逐一報告が入っていたとはいえ、
帰還してきた兵士達から伝えられる、口々の戦勝報告は
司令部で留守を守っていた面々の心を躍らせるだけのものがある。

「ですよねぇー! 4本ですよ、4本!!
 僕、還ってきたらサイン貰って、実家に送るよう
 家族に言われてるんです」

「フュリー・・・、お前ん家って、ミーハー丸出しだな・・・」

呆れたように苦笑しているブレダの様子も、少々声音が浮かれている。

「良いじゃないですか! そんな凄い人と一緒に働いているなんて、
 僕も家族も、自慢なんですから」

我が事のように、誇らしげに胸を張る彼の気持ちと周囲のメンバーの内心も
対して大差はないのだ。

「んで、我らが英雄と、司令官殿は、いつ戻って来るんですかね?」

最初の予定では、兵士共々戻ってきている予定だったが、
慰労を兼ねて中央に滞在してから戻る、のロイからの報告から
既に数日が過ぎている。

「それが、あちらで滞在中に、色々と声が掛けられたそうで、
 長引いているそうなのよ。
 そろそろ、戻って来れるとはおっしゃってたんだけど・・・」

「はぁ、人気者ってわけですね」

「なるほど・・・、じゃぁ、近々また移動も、なんて事も有るかもしれませんな」

ファルマンの一言に、皆もはっとする。
ロイが中将に昇任して、凱旋として正式な司令官として東方に戻って、数年。
その間に、エドワードが正式に軍へと入隊したりもあって、
東方の地区は、目覚しく治安の安定と、それに伴って発展も遂げてきた。
軍としては、そろそろ頃合と考えていたとしても、おかしくはないだろう。
それを裏付けるように、今回の演習の功績だ。
次期にも、地方支部に華を持たせようとは、中央のお偉い方は思わないことだろう。

「で、でもよ。 大将だけ移動・・・なんて事にならないだろうな?」

ハボックの言葉に、皆一様に黙り込んで、視線を交し合う。

「それは無いと思うわ・・・。 エドワード君が納得しないでしょうし、
 中将も多分・・・」(手放されないだろうし・・・)

「そう、そうですよね! 移動するなら皆一緒ですよね」

「皆一緒・・・、って、お前子供の仲良しグループじゃあるまいし」

笑いあうメンバーを眺めながら、ホークアイは小さな嘆息を吐く。
『そう・・・、中将はエドワード君を手放さない・・、いえ、手放せなく
 なっているんじゃないかしら・・・』
思わず浮かんできた懸念を払うように、窓から見える風景に目をやる。
燦々と、温かな陽光が降り注いでいる外では、不吉な符丁など全く窺えない。
気にしすぎだと自分を慰めながら、不在の主達が戻るのを待ち続けた。



「はぁ~、漸く戻れるのかー」

やれやれと、列車の椅子に腰をかけると、エドワードは大きな嘆息を吐いた。

「思わず長引いてしまったな」

苦笑をしながら返してやると、エドワードが不機嫌そうに頷き返す。

「全くだぜ。 よくもああ、お茶会だの夜会だのと有るもんだぜ」

「まぁそう言うな。 あれはあれで、顔つなぎする為に必要な場なんだ。
 君も、そろそろ慣れていかないとな」

ロイの言葉に、顔を顰めているエドワードを見つめながら、
中央での日々を回想する。
高官や名士達からのひっきりなしの招待は、ロイにとってはこの先の布石になる。
が、エドワードにとってはどうなのだろうか?
エドワードと働き出して、そろそろ数年が過ぎようとしている。
それは自分が東方で任期についていた期間と変わらない。
となると、そろそろ動くときが近づいているのかも知れない。
昇任と共に、態よく追い出されたロイだったが、今回の演習が大きなきっかけになるだろう。
事実、訪問先では、その話で持ちきりだった。
本人達よりも先に、そういう事に敏感な相手たちは、出来れば今のうちに
コネクションを繋いでおきたいと思ったのだろう。
それは、ロイやロイの仲間達には願ってもない事だが、
彼は、エドワードはどうするのだろうか・・・。

『いつまでも一緒と言うわけには、行かないのだろう・・な』

彼には彼の道がある。 元々、軍人にと願っていたわけではない、彼だ。
ロイが昇り続けている階段の、どこまで付いて着てくれるのだろうか・・・。
気づけばいつも横に居て、寄り添ってくれているのが当たり前のようになっていた。
が、それは、エドワードがロイに恩義を感じているからで、
返し終わったと思えば、離れていくのだと・・・今更ながら判った。

『彼の不在に、耐えれるだろうか・・・』
ロイは弱気な思いを抱きながら、斜め前の入り口近くに座っているエドワードを
こっそりと盗み見続ける。
そして、そんな行動をしている己の女々しさに気づいて、がっくりと落ち込んでもいる。
狸や狐の化かし合いのような社交場で、悠々と立ち振る舞い出し抜くことも、
悪意や害意、妬みや嫉みを、惜しげもなく降り注ぐ古狸達を相手にしても、
生死を賭けた戦場でさえも、耐えれないと思ったことなどなかった。
全ては、先へと続く、道程の1つだと思ってこれた自分が。

たった一人の人間の不在にも、耐えられないとは・・・。

日の翳る場所に居てさえ、存在の華やかさを醸し出している相手は、
さっきから熱心に、ホークアイから送られて来た書類を検分している。
無意識なのだろう。 俯いているせいでほつれた髪を、何度となく掻き揚げている。
その度に、白い項がよく見えるのを、ロイは目を眇めて見つめた。
『彼は、どう思っているのだろう・・・』
しばしば起こす体調不良も、最近では疲労のせいだろうと折り合いを付けたようだ。
数日もすれば、元通りになることもあって、不調をやり過ごす術を学んでいる。
・・・自分に頓着の無い彼らしい答えだが・・・

列車の振動に、不自然でない静けさの中、ロイはうつらうつらと眠りの淵を彷徨い始める。
その中で見る夢たちは、甘くも在り、切なくも在り、残酷で、痛みを抱えている。
様ようなシーンが、現実と混ざり合って、ロイの中を駆け巡っていく。
どれが願望で、幾つが現実にあったことなのだろうか・・・。

エドワードと他愛無い話で笑いあっている自分もいた。
かと思えば、エドワードを苛んで、ほくそ笑む自分もいる。
彼の無垢な笑顔を心から喜ぶ自分と、その笑みの向けられている先に
嫉妬し、妬んでいる己も・・・。

グチャグチャに、思考も心も入り乱れる混沌の夢の中、
1つだけはっきりと、ロイの中に浮かんでくる事実が。

ーーー 薬はもう、後1本しかないのだ ---

という、現実だけが・・・。




今日は珍しくも、ロイがエドワードの下宿先を訪れようとしていた。
たまの非番に当たったエドワードが、以前から気にかけていた本が、司令部のロイの元へと
届いたのを口実に、食事にでも誘おうかと思いついたからだ。
一応電話で都合を窺ってみると、あっさりと承諾したエドワードに、終わったら迎えに行くとだけ伝え、
時間はとくには指定はしていなかった。

車を下宿先の近くで止めさせ、降りようとした先に、見上げるように立ち尽くしている
一人の青年が目に入った。
人目を忍ぶように、路地端でウロウロとしている様子は不審人物そのものだ。
ただ、憂いを含んだ吐息を何度も吐いては、下宿屋の家を見上げる視線が、
妙な引っ掛かりを、ロイに浮かばせてくる。
ロイは降りようとして、扉に伸ばしていた手を引き、しばし思案した後に、
一言三言、運転手を努めていた下士官に声をかけ、自分はさっさと降りて、
不審者の視界には入らない表入り口から、入っていく。
顔見知り程度の宿の主に挨拶をして、訪問の理由を伝えると、
主は愛想良く頷き、ロイを通してくれた。

大きくは無い下宿屋では、主に学生達を預かっている。
エドワードが、ここに入れたのは、子供の頃から彼を知っている主達のおかげだろう。
軍人は何かと騒動を持ち込んでくるので、職業を伝えれば、断られることも多いのだ。
今のところ、激務が多く不在がちなせいもあって、天性のトラブルメーカーぶりは
発揮されてはいないようだったが。

階段を上がっていくと、人の話し声が聞こえてくる。
何を話しているかまでは聞き取れないが、会話をしている一人がエドワードの声で、
もう一人は、どうやらここの娘・・・要するにエドワードの婚約者のようだと気づくと、
ロイは思わず表情が固くなるのを止めることが出来ないでいた。

特に潜む必要もないのに、気配を消して近づいてしまうのは、
疚しく思う気持ちの顕れかも知れない・・・。

「エド、今日は夕飯はどうするの?」
明るい声が、期待に弾むように響いてくる。
「うん? あっ、ああ。 今日は中将と出かけることになってるから、
 心配ないぜ。
 
 それに、そうそう面倒見てもらうのも、悪い・・しさ」

「悪いなんて・・・。
 
 ねぇ、エドが嫌じゃなければだけど・・・。
 いつも言ってるでしょ、父や母が。
 良ければ、そのぉ・・・、一緒に暮らせばって。
 エドにしてみれば、式もまだだからって思ってるかも知れないけど、
 私の両親にとっては、もうエドは家族だと思ってるのよ。

 ・・・それに、私も・・・一緒に暮らせれば、嬉しいし・・・」

恥じらいを含んだ声に、彼女の言葉が指す本当の願いが滲んでみえる。
その瞬間 ロイは、自分の心臓を掴まれた気がした。
ギリギリと締め付けられる痛みに、口からは血の代わりに罵声が。
悲鳴の代わりに、怒声が飛び出して行きそうだ。

「ん・・・。 気持ちは嬉しい。
 でも、・・・には、ごめんな?
 これは俺なりのけじめなんだ。
 おじさんや、おばさんが良いって言ってくれても、
 きちんとしてから、そういう事はするべきだと思ってるから・・・さ」

少し照れたように聞こえるのは、エドワードにも彼女の伝えたい意味が判っているからだろう。

「だから、今は互いにこれだけで我慢しような」

そんな言葉と共に、微かな衣擦れの音と静寂が訪れる。
そして、その言葉の後に続く静けさが、ロイの心に悲鳴を上げさせ続ける。
ロイはフラリと襲う眩暈に耐えるように、薄く開いた扉の取っ手に手をかける。

「・・・鋼のいるのか? 本を持ってきたが?」

絞り出すように言葉を口にしてはみたが、中の二人に妙に思われなかっただろうか・・・。
できるだけ、平静さを装いはしたが・・・。

「あっ、ああ! 開いてるよ、どうぞ!」

慌てたように返ってきた返答に返しながら、ロイはできるだけゆっくりと扉を開けて
中へと入っていく。

「やぁ、こんにちは、久しぶりだね?
 ・・・もしかしたら、お邪魔をしてしまったかな?」

二人が揃って立っているのに、視線を流して会釈をする。

「あっ、いいえ! とんでもないです。
 私の方は、もう下に戻るところでしたから、どうぞごゆっくり」

頬を染めながら、慌しく小さな礼と挨拶をして、彼女が扉から走り出て行くのを
ロイは視線を逸らせたままで、見送った。
 ----- いつまで経っても、彼女を直視出来ない・・な -----
紹介をされてから、幾度か顔を合わせているはずなのに、
まともに顔を見た覚えがないのは、自分が見ようとしないからだろう。

「中将、ごめんな、わざわざ。
 言ってくれれば、取りに行ったのにさ」

邪気のないエドワードの笑みを見て、ロイの心の中を走るのは切なさだ。

「いいや、構わないさ。 どうせ、帰り道だしね。
 それよりも、何か食べたい物の希望でもあるかな?」

「んー、特にはないけどさ、あんま堅苦しいとこはパスな」

「ああ、了解した。 じゃぁ、出かけるか」

歩いていけるとのロイの言葉に、二人は並んで歩き出す。
歩きながら話す事は、他愛無い自分らの近況だ。
それに相槌や、言葉を返しながら、ロイは横に並んで進む、頭半分小さな姿を映しながら
自分の思いに浸っていく。

さっき、エドワードが言った言葉・・・『わざわざ』。
そう。 用事でも作らない限り、自分は彼に逢いに行く事も出来はしないのだ。
軍を出てしまえば、自分達の繋がりが、どれ程頼りないものなのかを実感させられる。
そして、彼が軍を抜けてしまえば・・・繋がる事さえ出来なくなる。

『片や、共にある方が自然だと言われ、もう片方は、自然に傍にいる事さえ難しいとはな』
嘆息とも、自嘲ともつかない、吐息が胸の中に零れ落ちる。


二人が入った店は、程よい喧騒が店の空間を作っていて、
一人で入った者でも、気兼ねなく食事が取れそうな家庭料理の店だ。
独り者だと、なかなか作れない煮込み料理が、肉や魚、野菜のそれぞれをメインに
数多くメニューに並んでいる。
熱々のうちに出される料理の数々に、舌鼓を打ちながら食事を平らげる。
料理が美味いと、自然と酒も進んでいく。
互いの腹に、相当量の料理と酒が消えて無くなった頃、
そろそろ、忙しい時間に近づいているのか、店が更に活気付いてくる。

「そろそろ、席を空けようか?」
「ん、そうだな。 でも、この店が人気あるの判る、料理だったよな」

満足そうに頷きあって外に出ると、そろそろ夕闇が去って、
夜の帳が始まる頃合になっていた。
賑やかな人の流れを楽しみながら、二人もぶらぶらと歩いていく。

「どうする? まだ時間が早いから、もう1軒行くか?
 近くにいい店があるから、教えるが」

ロイもエドワードも、酒には強い方だ。 食事と共に飲んだ酒程度では、
そうそう、酔うと言うほどでもなく、せいぜいがほろ酔い程度だ。
自身が飲み足りないのもあるが、本音を言えば、出来るだけ長く一緒に居たい。
もし叶うなら・・・帰したくない、そう思っているからだろう。
そんなロイの隠された願いとは逆に、エドワードがあっさりと断りを告げてくる。
「いや、今日はもう止めとくわ。
 明日、休み明けの出勤だろ? ちょっと早めに行っといた方が、無難だろうしさ」
真面目なエドワードらしい答えに、ロイは内心、残念がる気持ちを抑えて、
「そうか、ご苦労だな」と笑みを作って返す。

「んー、でも腹ごなしは必要だよな」
両手を頭の後ろで組みながら背伸びして、エドワードは満足そうに息を吐き出す。
「君、良く食べてたからな」
笑いを含んで返した言葉に、素直な返事が返る。
「ああ。 あそこの気に入った。 家庭料理ってとこが、いいよな」
「・・・そうか。 が、君も結婚すれば、嫌でも毎日食べれるようになるだろ?」
浮かんでくる苦い思いを噛み砕きながら、そう告げる。
「う・・・ん? どうかな?」
返ってきたエドワードの返答に微妙な含みがあるような気がして、ロイは思わず
視線を合わせる。
「少し・・・散歩でもして帰るか」
ロイの誘いに、頷いて付いてくることで返事を返してくる。

建物の合間を縫う様にして歩き進むと、河川に出てくる。
ロイとエドワードは、口数少ないまま、その堤防を感覚の遠い電灯を頼りに
歩き進んでいく。

「鋼の・・・、さっきはどうして、あんな返答に?」
沈黙を破るように、出された言葉が意外だったのか、
エドワードが小さく首を傾げて、ロイを窺い見てくる。
「さっき?」
「ああ。 家庭で料理が食べれるだろうと告げた時に、君は『どうかな?』と
 答えたが、何故なんだい?」
「ああっ」 そんな事かと言うように声を上げ、微かに苦笑を浮かべている。

「特に意味はないけど・・・。

 俺らって、はっきり言って忙しいだろ?
 だから、帰って食べるかわかんないじゃん。
 そんな奴を待っててもらうのも悪いからさ、作って待ってて貰うつもりは、
 俺、全然ないんだ」

ロイは思わず足を止めて、それを言った本人の方を見る。
言った本人は、特に気負って言ったわけでもないのか、
歩みを止めてまで、自分が見られてる事には気づかずに、先へと歩いていく。

「それに、彼女んちなら、寂しくないだろ?
 皆で揃って下宿ややってるから、兄弟達の奥さんや家族達も
 集まって食べるしさ」

ーーー 寂しくないのは、自分ではなく、彼女? ---
そんな事を平然と告げるエドワードの真意は、どこに向かっているのだろう?
彼は家族に憧れていた。
だから、家族と共に過ごす生活を望んでいたのではなかっただろうか?

エドワードの意外な告白に、ロイは茫然と立ち尽くしてしまう。

「どうしたんだよ? 疲れたのか?
 なんなら、ちょっと休んでいくか?」

立ち止まったままのロイを気にしてか、エドワードが堤防の端を指してくる。
「あっ・・、ああ」
短い返答を返しながら、ロイは身近な堤防の端に腰をかける。
気がかりそうな視線に、大丈夫だと笑って首を振ると、
それ以上問いかける事はせずに、エドワードも静かに並んで腰をかけてくる。

「君は・・・家族が欲しかったんじゃないのか?」

少なくとも、ロイはずっとそう信じていた。
彼らが幼い時に無くしたものの中で、エドワードが一番渇望していたモノ。

「家族・・・か。

 そうだな・・・、前はそうだったかも・・な」

「前は? では、今はそうではないと?」

言葉が思わず早くなる。
それは、ロイの胸中に浮かび上がる感情のせいだ。
焦燥感や、寂寥感などの弱い感情ではなく。 
それは、《 怒り 》に近い。
誰に対して・・・。 何に対して、とかではなく
八つ当たりに近い憤り。

エドワードの願いを思っていたからこそ、ロイは一時は身を引く事を選んだのだ。
自分の歪んだ願望よりも、この青年の未来を大切にしたいと思ったからこそ。

なのに、そうではないと? 

ロイの双眸が、暗い色に染め上げられ、剣呑な光を宿すが
遠い過去を覗き込んでいるような瞳のエドワードには、気づけないようだった。

「・・・家族は欲しかった・・ずっと。
 でもそれは、血の繋がりとか、一緒に暮らすって言うことじゃなかったんだな、俺の場合は。
 
 自分を信じてくれて、自分が信じられる人の輪の中で、
 生きて生きたいって事だったんじゃないかと思う。
 
 俺らは自分達の咎で、人と輪を作って生きることが難しくなった。
 だから、どこにも所属できずに、世界のどの輪からも外れて生きてきた。
 
 それを後悔しているとかじゃないんだぜ?
 あの時は、そうしなければ生きていけなかったから」

淡々、語られる言葉に、ロイは愕然とした気持ちで聞き続ける。
『生きていけない』と語ったエドワードの、伝えたい事は良く解かる。
あの身体になった時、兄は弟への罪悪で生きる意志を失い、
弟は、生きたくても、人としては生けない状況を抱えてしまったのだから。
そんな頃の二人が、普通の人としての生き方を願えば、すぐさま絶望で息耐えただろう。

そうならなかったのは、二人が人としての人生を、一時とはいえ、捨て去ったからだ。
それが痛いほど理解できるからこそ、エドワードの言葉に納得が出来ない。
いや、したくない自分がいる。

「あんたや、皆と逢えて、色々な事があった・・・一杯。
 そんな時を過ごしているうちに、俺にも視たい未来が見えてきた。

 それにがむしゃらに熱中しているうちに、気づけば満足している自分がいたんだ。
 皆と一緒に『生きている』自分にな。
 
 だから、俺にとって家族が欲しかったものの全てじゃなかったんだな、って気づいたんだ」

「なら・・・、なら、君にとっての・・結婚の意味は?」

エドワードの語る言葉には嘘は無い。 彼は真実、ロイや仲間たちと生きていこうと
思ってくれているのが伝わってくる。
それはロイにとって、いずれは離れる日が来るのでは、と思っていた杞憂を払ってくれる。
それを思うと、エドワードと言う存在を手放さなくて良いことに、安堵と喜びが込上げてくる。
が・・・・・。

「俺にとって、結婚は・・・。

 言葉にするのが凄く難しいんだけど・・・。
 
 勿論、彼女のことは好きだと思ってるんだぜ?
 あいつ、凄く芯が強いとこがあってさ。 俺もアルも、餓鬼の時から
 色々と助けてもらったり、慰めてもらってきたんだ。

 正直、彼女から好きって言われて、暫くして、婚約って話を家族が持ち出したときも、
 俺は『何でだろ?』って思ってた。
 別にこんな軍人じゃなくても、家を省みなさそうな旦那じゃなくても、
 もっといい奴って、一杯いるのになぁーって。
 だから、正直にそう言ったし、俺は自分のやりたい事を優先する人間だからって、
 一応、断ったんだぜ、これでも。

 でも、彼女はそんな俺で構わないって言ってくれて、おじさんやおばさんや、
 兄弟までもが、俺が不在の時は、彼女の事は任せろ、寂しい思いはさせないからって、
 請け負ってくれてさ・・・。
 だから、・・・なら、こんな俺でも家族を持ってもいいのかなって・・思えてさ。

 つい夢を視ちまったんだよな・・・、俺らが創る未来を見届ける家族が欲しい・・て」

そこまで語ると、エドワードは照れたように笑いながら、
腰を上げて立ちあがると、ロイの目の前に立つ。

「俺な、今の俺の視たい夢はな・・・ あんたが創る、この国の道行・・だ。
 俺はずっと見続ける、あんたの横でな。

 そしていつか、俺の家族達に言ってやるんだ。 
 こんな素晴らしい国を創ったのは、俺らなんだぞ・・・ってさ。

 だから、一緒に頑張ろうな」

誇らしげに謳い上げる彼の視線が、真っ直ぐにロイを刺し貫いていく。
頑張ろうと伝えるように差し出された手。
ロイは、震えているのを知られないかを気にしながらも、差し出された手を掴む。

彼は告げている・・・、ロイに自分の未来を託すと。
彼は誓ってくれている・・・、永遠に傍にいることを。

残酷な喜びで、甘美な痛み・・・。
その手を掴むことは、己の中の罪悪感を募らせる結果になるだろう。
その手に答えることは、自分の中に飼う獣を茨の檻で囲う事になるだろう。
   そして・・・、自分の中に芽生えた真実の願いを、潰さなくてはならないのだ。

それでも、告げて、差し伸べられた手を取らずにはおられない。
・・・放す事など、考えられない程、堕ちている自分なのだから・・・。



ーーー 《ここから、3周年&10万ヒット企画です》 ---

 ★お読みいただいている貴方の好きなENDを選んでお進み下さい。
  選んで頂いたタイトルは、アップ毎にリンクが張られて、ページに
  飛べるようになります。


 1)BAD END
    『夢の最果て』
    二人の恋は実りません。「初恋は実らず」がサブタイトルです。

 2)BLACK Roy × Edward
    『狩人と哀れな獲物』
    罠を仕掛けたロイが、まんまとエドを捕らえます。
    姑息なロイの技が、閃きます。

 3)HAPPY END (Roy × BLACK Edward)
    『勿忘草』
    忘却の薬に付けられた名の、真実の意味は?
    HAPPY ENDと銘打って、実は一番・・・なのかも。


 ★現在はこの3本を順次アップして行きます。
  ただ、皆様のご要望や拙宅の思いつきで、パターンが増えるかも知れません。
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